少子高齢化が急速に進み、労働人口の低下を避けられない日本において、企業では労働力の確保や生産性向上が課題となっています。そこで注目されているのが、従業員の健康管理を戦略的に実践する「健康経営」の考え方です。
今回は、健康経営の成り立ちや政府の取り組みについて解説するとともに、導入方法や注意点などについてもご紹介します。
健康経営とは
健康経営とは「従業員等の健康管理を経営的な視点で考え、戦略的に実践すること」であるとし、経済産業省が行う取り組みの一つとして定義されています。
従業員の健康にアプローチすることを「投資」ととらえて、組織の活性化や利益向上につなげていくという考え方です。これは1994年にアメリカの臨床心理学者ロバート・ローゼン博士が提唱した「ヘルシー・カンパニー」という思想に基づいており、現在では世界中で注目されています。
健康経営が注目されている背景
健康経営が注目される要因として、まず挙げられるのは少子高齢化です。国民医療費や介護保険給付が増え続けることで、企業の負担も増加しています。
さらに、労働人口が減り続ける中で、今いる従業員の生産性を上げていくことも必要です。生活習慣病や仕事上のストレスによる精神疾患などを防ぐ取り組みによって、欠勤や離職を減らし、業務効率アップや医療費削減を叶えることが望まれます。
健康経営の制度
経済産業省では、健康経営に取り組む企業を「見える化」して社会的評価につなげるため、顕彰制度を設けています。
健康経営銘柄
健康経営銘柄とは、東京証券取引所の上場会社を対象に、健康経営に優れた企業を選定する制度です。健康経営銘柄を取得した企業は、投資家にとって魅力ある企業として紹介されるため資本集めの点でメリットがあります。
また、その取り組みによって生産性や企業価値等に得られた効果を発信し、健康経営の普及拡大を図るための「アンバサダー」としての役割も期待されています。
健康経営優良法人
健康経営優良法人は、非上場企業や中小企業を対象とした制度です。健康経営に取り組む企業として認定されると、「健康経営優良法人」のロゴマークを使用できます。従業員だけでなく関係企業や金融機関、求職者といった社内外への認知、評価につながります。
ホワイト500・ブライト500
健康経営優良法人の制度は、大規模法人部門と中小規模法人部門の2つに分けられています。その各部門において、より優れた上位500法人に認定されるのが「ホワイト500(大規模法人)」「ブライト500(中小規模法人)」です。大規模法人では2,000法人以上、中小規模法人では12,000法人以上の中から選ばれるため、数少ない優秀企業として社内外へのアピールになります。
健康経営導入のメリット
企業が健康経営を導入することで、具体的にどのようなメリットがあるでしょうか。1つずつ解説します。
生産性の向上
肩こりや腰痛といった慢性的な身体の不調や、イライラや不眠といったメンタル面の不調を抱えていると、目の前の仕事に集中できず作業効率が低下してしまいます。大きな疾患に限らず、こうした心身の不調を取り除くことで従業員一人一人のパフォーマンスが向上し、企業全体の生産性アップへとつながります。
企業のリスクマネジメント
従業員が心身の健康に問題を抱えている場合、症状が悪化して休職や離職せざるを得なくなったり、事故や不祥事を引き起こしたりする場面があるかもしれません。そのような事態が起きると、企業にとってはコストや信用の面で負担となります。健康経営を導入して貴重な人材の健康管理を行うことは、リスクマネジメントの点からも重要です。
医療費の削減
従業員が健康になり、医療機関への受診が少なくなれば、その分企業が負担する医療費が削減できます。少子高齢化により、今後も増加が見込まれる社会保障費の中で、少しでも医療費が削減できることは、企業にとってメリットとなります。
企業価値・イメージアップ
健康経営に取り組む会社は、「従業員を大切にする企業」として認知されます。先にご紹介した健康経営銘柄や健康経営優良法人に選出されると、国からのお墨付きとしてより一層のイメージアップとなり、人材や資本が集まりやすくなるでしょう。
健康経営に取り組むべき企業
健康経営はすべての企業で導入されるべきですが、中でも早急に取り組むべき企業の特徴をご紹介します。
まずは、ストレスチェックの結果が悪い企業。50人以上の従業員がいる企業で義務化されているストレスチェックの点数を見て、高ストレスを抱えた従業員が多い企業には健康経営の導入が求められます。
人手不足などの理由から、長時間労働や休日出勤が常態化している企業も要注意です。心身を休める時間が取れずに不調を起こしやすくなり、体調を崩しても受診する時間がないという悪循環が起きているケースもあるかもしれません。
また、中高年の従業員が多い企業についても健康経営が推奨されます。40代、50代では管理職に就く従業員も多いですが、いろいろな疾患にかかりやすくなるのもこの年代です。大切な人材を守るために、中高年の従業員の健康管理は重要な課題といえます。
健康経営の導入方法
健康経営の必要性が分かったところで、実際に導入する際の手順についてご紹介します。
健康経営の実施を社内外へ告知
健康経営を導入するにあたり、まずは会社のトップが健康経営の重要性を理解し、経営理念に明文化することが必要です。そのうえで、社内報やプレスリリースを通じて内外へ告知します。
実施に必要な組織や環境を整える
従業員の健康管理を行うための組織を作り、必要な人員を確保します。産業医や健康経営アドバイザーなどの専門家の手を借りることや、外部委託も視野に入れながら、企業全体で取り組める体制を作りましょう。
課題を把握する
自社の従業員が持つ、健康上の課題を把握します。健康診断やストレスチェックの受診率とその結果をデータ化し、そこから見える課題を洗い出します。残業時間や有給消化率についても調査し、具体的な目標や改善点を明確化しましょう。
計画を立案する
健康経営のための課題が把握できたら、施策として具体的な計画を立てて実行します。例えばノー残業デーの実施や、ストレッチ・体操の時間を作る、有給休暇の消化推奨などです。健康に関するセミナーや研修を通じて、全社的に健康への意識を高めていくことも大切になります。
取り組みへの評価を行う
実行された取り組みに対して、参加率や参加した従業員の感想、実際の体調の変化といった評価を行って、その後の取り組みに活かしましょう。
健康経営を導入するときの注意点とポイント
健康経営を導入するうえで注意すべきことは、大きく2つあります。
1つは、企業のトップである経営陣の理解が不可欠であること。これまでやってこなかった新しい取り組みを進めるには、経営陣自らがその重要性を理解し、企業全体の取り組みとして積極的に社内外へ発信することが必要です。
そしてもう1つは、従業員ひとりひとりに健康経営の認識を広げ、全社的な取り組みとして浸透させていくこと。経営陣をはじめ、社内で影響力を持つ人物の協力を得て、多くの従業員に健康経営への参加を呼びかけましょう。参加者が固定されてしまい、残業に追われて時間がなかったり、健康に無関心でいたりする従業員を取り残すといったことがないように努めてください。
健康経営の取り組み事例
企業が行う健康経営の取り組みとして、さまざまな事例が挙げられます。たとえば運動促進のために社内に運動器具を設置する、社内食堂のメニューを工夫する、社内分煙や禁煙サポートを積極的に行うなどです。このような取り組みが運動習慣の向上や健康診断の結果に表れることで、職場環境改善の大きな一歩になると言えるでしょう。
経済産業省のホームページでも、健康経営銘柄に選定された企業の取り組みが紹介されていますので、参考にしてみてください。
健康課題の調査と目的にあった健康経営を推進しよう
健康経営の考え方や、導入方法についてご紹介しました。企業全体で健康への意識を共有することは難しいと感じられるかもしれません。しかし現状をしっかりと把握することで自ずと課題が見えてきます。まずは実践してみて、評価と改善を繰り返しましょう。
また、従業員の健康管理の視点から、オフィス環境を整えることも重要です。空気環境や音環境に並んで、長時間に及ぶ「座り過ぎ」の姿勢についても近年は注目されています。
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